楽しいことする

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夢日記

次の試験は地理である。

地理は苦手分野であったが、現代における基礎知識があれば、あとは問題文をよく読めば解けるようなものであった。
もちろん知らないことについての問いもあったが、問題文に答えが隠されているなどするため、その部分だけ空白で提出することは避けられるのである。

地理といえば、大陸、国、地域、様々な切り口でその土地の風土や文化などについて出題される。しかし、今回の問題をパラパラと見る限り、その風土、文化の上で生活する"人"に焦点が当てられているのである。

多くの問題はまず新聞記事や漫画のような表現の読み物を読み、その内容について答えることになっている。
蚕業で活躍する女性の背景、水路を作るために相談をする人々、その地域に住まう民族の生活。もちろんその場所はどこであるとか、その川の名前、民族の名前などを答えるサービス問題もあった。

全く試験対策をしていなかったため、自分が既に持っている知識と、読み物を頼りに解答していく。
姉は対策をしっかりしていたのか問題を全て時終えたようで、席を立ち、部屋から出ていった。

私も最後の問題に差し掛かる。

とある民族の問題のようであった。私はこの民族については何も知らない。

しかし、問題に対応する記事も不十分なのか、全く解答を導き出すことができないのだ。

"これ"の名前は?

どこにもそれは書いていない。
記事に写るのは綺麗な白髪の青年である。

 

小さな子供が2人、それぞれ3歳か4歳といったところだろうか。和室で追いかけっこをしている。

そしてその手前の玄関、と言っても、その外も暗い室内であるため、段差がある部屋の入り口といった方が良いのだろうが、そこで1人の若い女性が子供たちを一列に並ばせ、何かを言っているようだった。

私はその光景をぼんやりと眺めていただけだったのだが、その声で自分という存在がこの空間に存在していることを認識する。

「私は◾️◾️である。」

そこには例の綺麗な白髪の青年が立っていた。
私は問題を解いていることを思い出した。

 

記事に青年が女性や子供たちと会話する場面が描かれている。
その場所は暗い洞窟の中で、子供たちはその中で生活をしているようであった。

私はこの記事に載ってないことを知っている。
しかし、その名前は知らない。

その時、問題用紙にうっすらと何か裏移りしていることに気がついた。
実は、今まで読んでいた記事は後半のみで、その裏に前半があったのだ。(実際、今まで見ていたものが裏面で、表面を見ていなかったのだが。)

人間と同じ世界で生きる。
人間とは変わらない姿をしているが、人と同じ世界で生活するにはいろんな障壁があり、多種多様であると言われている現代においても、まだ完全にそれを実現できていないのである。

そこにはあの白髪の青年がおり、こう名乗っていた。

「私は炮虎である。」

青年の声が脳内で響く。
私はこの名前を知っている。

解答欄にその名前を書くと、もうすぐ試験が終わってしまうところだった。
まだ自分の名前の記名ができていなかった。

 

試験が終わると、試験からの開放感に浸ることも惜しんですぐに出かけた。
私は行かなければ行かない場所がある。

そこにはあの青年が立っていた。
「これから仲間のところへ行こう。」
その顔は凛と美しくも、どこか悲しげであった。

 

たどり着いた先は町工場のような場所だった。
見習いらしき若者から熟練の職人のような風貌の人まで、様々な年代がいるようだ。

「おお、久しぶりだな。」

職人の1人が青年に声をかけてきた。

「お変わりないようで。」

「まぁお前らと違ってこちとら人間じゃけぇ、立派なじじいになってしまったがな!」

おじさんはガハハと笑った。この人は人間らしい。

「"お前ら"って?」

「この方以外はみんな、僕の仲間だよ。」

見習いらしき若者も、何十年も働いていそうな職人も、みんな仲間だという。
周りもこちらに気付いたようで続々とおじさんの元へ集まってくる。

「この人はいい人だよ〜。俺らを普通の人間と変わらず扱ってくれる!」
「だからいっつもひでぇ怒られるんだけどな!」

うっせぇ!と言っておじさんは若者をどついた。仲間たちは楽しそうに笑っていた。

「よかった。」

青年がポツリと呟いたが、他の人に聞こえていたかはわからないし、私の気のせいかもしれない。

「では、また。」

「おう!いつでも待ってるからな!」

私は青年と工場をあとにした。

 

「僕たちは今まで人間に気がつかれないようにひっそりと生きてきた。でも今こうやって僕たちを僕たちとして認識し、一緒に生きて行こうとしてくれる人間がいる。」

夕暮れの柔らかい光が青年の美しい髪に反射して、より一層美しく見える。
その顔はきれいで優しさに満ちていた。